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冨田浩司 (2011)『危機の指導者 チャーチル』読了

 

全世界が新型コロナウイルス対応に追われています。そんな中、米トランプ大統領は、「ある意味、自分のことを戦時下の大統領だとみなしている」そうです。例えば、2020319日付BBC NEWS JAPAN(https://www.bbc.com/japanese/51956037)ご参照。

現状を戦時ととらえるかどうか、トランプ大統領を戦時下の大統領とみなすかどうかはともかく、厳しい状況にあることは間違いありません。そこで、歴史における危機の指導者に関心を抱き、この本を手に取りました。おかげさまで、多くのことを学ぶことが出来ました。印象深いのは次の点です。

1にチャーチルについて、若き日にインド西北部(現在のパキスタン)の暴動鎮圧に従事した頃から亡くなるまで、ほぼ年代順に書かれています。それによって、(名前を知っているだけに等しかった)チャーチルのことを良く知ることができました。2にチャーチルの指導者としての資質は、コミュニケーション能力・行動志向の実務主義・歴史観にあり、「人を導くものは、その人の良心以外にはない。そして彼の声価を守る盾となるのは、本人の行動の正しさと真摯さ以外にはない」(192)という(チャーチルの)信条が紹介されています。これらはいずれも特別なことではありません。基本動作の重要性を再認識しました。同時に、「国家存亡の危機において最も相応しい指導者を選び出す能力を備えていたという意味で、英国の政治制度の強靭さを示している。しかし、制度を動かすのは、詰まるところ時々の人間の判断であることを忘れるべきではな」(222)く、「指導者を選ぶのは、国であり、政治であり、国民であ」(300)ることから、(結局は)国民(の民度)次第であることも指摘されています。3に筆者は、「好悪善悪を超えたチャーチルの大きさ」(302)を述べています。危機の指導者には、(特に)人間的な魅力が欠かせないように思いました。

なおイギリス会計の特徴として良く知られている、原則主義・実質優先主義・離脱規定は、「成典憲法を持たない英国においては、他国同様、法に社会を規律する役割が与えられているものの、議会での議論を経て正統性を得た政治的意思が法を超越する柔軟性が認められている。議会制民主主義の母国、英国は法治主義の母国でもあるが、本質的には『人治』主義の国(299頁、下線は安藤)が前提であることも確認できました。行き掛けの駄賃となりました。