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國部克彦 (2017)『アカウンタビリティから経営倫理へ 経済を超えるために』読了

筆者は、(20世紀の行き過ぎた)経済中心の時代から(新たに)人間中心の時代を構築する役割を、会計に見出しています。とはいえ、会計、中でも企業会計は、株主から負託を受けて利益の極大化を目指す、企業(活動)を支える役割を担っています。確かに近時の企業は、ビジ

ネスのグローバル化や複雑化・格差の拡大や顕在化・環境問題への意識の高まりなどによって、経済中心の時代の原因(元凶)のように言われることがあります。しかしだからといって、(企業活動を行うわけではなく、あくまで)企業活動を支える役割を担う会計が、(企業に

代わって)人間中心の時代を構築する役割を担うことが出来るのでしょうか。この点について筆者は、アカウンタビリティ(という理念)によって可能だと考えています。筆者の言うアカウンタビリティとは、哲学者アーレントとデリダの思考に依っています。すなわち、公共

性・責任・正義の視点から、企業の価値は利益のみではなく、弱者や女性・環境への配慮といった(利益以外の)様々な価値も勘案されなければならないというものです。そして、この理念を現実の企業会計に落とし込む施策として、複数の価値の具現化を目指すSDGs(持続可

能な開発目標)を提案しています。会計で経済を超えよう・会計で世界を変えようという、明確かつアグレッシブなメッセージは素晴らしいと思いました。勿論、筆者のメッセージが全て受け入れられ、実現するかどうかは分かりません。しかし、理念を高く掲げた上で、利益のみに価値を見出す経済中心の時代への批判(のみ)にとどまらず、様々な価値に基づく人間中心の時代への具体的な移行策を示している点にも意義を感じました。