· 

トーマス・フリードマン、伏見威蕃[訳](2018)『遅刻してくれてありがとう:常識が通じない時代の生き方(上)(下)』読了

筆者は、「テクノロジー」の発達により、常識が崩壊した社会のあり方を考察し、常識が崩壊した社会における生き方を指南しています。最初に、2007年頃から始まった「テクノロジー」および「市場」「自然環境」の急激な変化について、それぞれの詳細および社会に与えた影響が解説されます。そして、それらの変化を乗り切る手段として「動的安定」が示されます。「動的安定」とは、変化に合わせて、既存の制度をスクラップ&ビルドしながら、イノベーションを起こし続けることです。そのためには、職場・地政学・政治・倫理・コミュニティ(の5つ)が重要であり、それぞれにおける対応策も説明されています。その上で、「9時から5時までという古い労働の時代を懐かしんで嘆いてはいけない。それは去り、二度と戻らない。しかし、移行がはじまったら、道のりは険しいだろうかが、新しいも

のであるAIと、つねに変わらず、これからも変わらないよいもの-セルフ・モチベーション、思いやりのある大人や指導者、興味をおぼえたり野心を抱いたりした分野での練習-をうまく組み合わせることができれば、その先にはもっといい公平な職場がある可能性が高い」と確信しており、「今必要なことはAIをIA(Intelligence Assist、知的支援)に変えることによって、社会全体でハイテクに対応できる教育体制を作り、そこで一生学び続けることによって長い(仕事)人生を勝ち抜くこと」だといいます。この点、①様々なものが過剰に存在する中で、じっくり考えることを忘れず、意識してゆっくり生きていく、②変化に対応し続けるには、学び続けなければならないが、時には立ち止まって、自分の考えを整理する、③全てが加速していく社会は、ボヤボヤしてはいられないが、それほど悲観することもない、と理解しました。また「信頼は唯一の合法的な能力向上薬物」というメッセージは腹落ちしました。本書も前作の『フラット化する世界-経済の大転換と人間の未来-(上)(下)』(2006年)同様、計800頁超の大部でした。しかし得るところは多かったです。