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ユヴァル・ノア・ハラリ、柴田裕之[訳](2016)『サピエンス全史:文明の構造と人類の幸福(上)(下)』読了

世界中でベストセラーになった本書をようやく読了しました。初版から5年以上経過していますが、中身は新鮮でした。(上)(下)から興味深く感じた点および本書から与えられた課題を下記します。

 

興味深く感じた点(上)

1.人間(ホモ・サピエンス)について

人間(ホモ・サピエンス)を人間たらしめているのは、不特定多数の人たちが協力して、ことにあたれること。実際、噂話の共有といったface to faceのコミュニケーションでまとまることが出来るのは150人が限界。これを超えたら、イリュージョンで価値観を共有する。この点、「古代メソポタミアの都市から秦やローマの帝国まで、こういった協力ネットワークは、『想像上の秩序』だった。すなわち、それらを維持していた社会規範は、しっかり根づいた本能や個人的な面識ではなく、共有された神話を信じる気持ちに基づいていたの」であり、「私たちが特定の秩序を信じるのは、それが客観的に正しいからではなく、それを信じれば効果的に協力して、より良い社会を作り出せるからだ。」と述べている。[EA]とはいえ、トランプ前アメリカ大統領によるアメリカ・ファーストは、真逆の行き方のように感じる。人間も、いずれ、昔存在しその後絶滅したネアンデルタール人と同じ道を歩むのか?

2.人間(ホモ・サピエンス)の進化について

昔世界史で学んだ、狩猟民族から農耕民族への進化について、「ホモ・サピエンスがそれらを栽培化したのではなく、逆にホモ・サピエンスがそれらに家畜化された」という見立てが示されている。また、「進化の通貨は飢えでも痛みでもなく、DNAの二重螺旋の複製だ。企業の経済的成功は、従業員の幸福度ではなく銀行預金の金額によってのみ測られるのとちょうど同じで、一つの種の進化上の成功は、DNAの複製の数によって測られる。DNAの複製が尽き果てれば、その種は絶滅する。資金が尽きた企業が倒産するのとまったく同じ」であり、「歴史の数少ない鉄則の一つに、贅沢品は必需品となり、新たな義務を生じさせる、というものがある。」と述べている。[EA]確かに世の中はnice to haveにあふれている。しかし以前より豊かな生活を送れているのか?

3.会計係について

「歴史上初めて記録された名前が、預言者や詩人、偉大な征服者ではなく会計係のものだったというのは、意味深長だ。」と述べている。会計士に関する、「このような引き出しのシステムを運営する人は、正常に機能するためには、普通の人間として考えるのをやめて、整理係や会計士として考えるように、頭をプログラムし直さなければならない。古代から今日に至るまで、誰もが知っているとおり、整理係や会計士は普通の人間とは違う思考法を採る。彼らは書類整理用のキャビネットのように考えるのだ。」という指摘も興味深い[EA]。

4.旧ソ連について

「誰もがその能力に応じて働き、必要に応じて受け取るという理想は、誰もがさぼれるだけさぼり、もらえるだけもらうという現実を招いた。」と述べている。[EA]確かに、私利私欲を極端に抑えつけると人は働かないだろうし、公正や公平といった価値観を過度に重視すれば生産性は落ちるのではないか?

5.貨幣について

「信頼こそ、あらゆる種類の貨幣を生み出す際の原材料にほかならない。」と、信頼が貨幣に価値を与えていると述べている。

6.国家について

「国家は、金融面での行動や環境政策、正義に関する国際基準に従うことを余儀なくされている、と。」と述べている。[EA]とすれば、いずれ世界中の国や地域における上場企業の連結財務諸表には、国際財務報告基準が(強制)適用されるのか?

 

興味深く感じた点(下)

7.世界の人々について

・アメリカ人は、テロリズムの解決策は政治ではなくテクノロジーによるものだと信じている。

・中国人やペルシャ人が、西洋人との開拓競争に敗れた、というかそもそもそのステージに上がることさえできなったのは、西洋で何世紀もかけて形成され成熟した価値観や神話、司法の組織、社会政治的な構造が足りなかったから。

・フランスやアメリカがいち早くイギリスを見習ったのは、フランス人やアメリカ人は、イギリスの最も重要な神話と社会構造をすでに取り入れていたから。

・日本は、明治時代に日本人が、並外れた努力を重ね、西洋の機械や装置を採用するだけにとどまらず、社会と政治の多くの面を西洋を手本として作り直したから、例外的に19世紀末にすでに西洋に首尾よく追いついた。

8.アダム・スミスの主張について

・強欲は善であり、個人がより裕福になることは当の本人だけでなく、他の全員のためになる。利己主義はすなわち利他主義である、と整理している。

9.資本主義について

・近代資本主義経済で決定的に重要な役割を担ったのは、利益は生産に再投資されるべき、という新しく登場した倫理観である。

・政治的な偏見がいっさいない市場など、どう考えてもありはしない。自由市場資本主義は、利益が公正な方法で得られることも、公正な方法で配分されることも保証できない。

・経済成長と自立が人々の幸せを増大させないのなら、資本主義にはどんな利点があるか。興味深い結論の一つとして、富が実際に幸福をもたらす。だがそれは、一定の水準までで、そこを超えると富はほとんど意味を持たなくなる。また、病気は短期的には幸福度を下落させるが、長期的な苦悩の種となるのは、それが悪化の一途をたどったり、継続的で心身ともに消耗させるような痛みを伴ったりする場合に限られる。

・オランダ海上帝国を建設したのは、オランダという国家ではなく、オランダの商人たちだった。

10.現代の特徴について

・私たちは集団全体の苦しみよりも個人の苦しみに共感しやすい。2002年という、9-11の翌年でも一般の人々は、テロリストや兵士、あるいは麻薬の売人に殺されるよりも、自殺する可能性のほうが高かったらしい。暴力の減少は主に、国家の台頭のおかげだ。

・戦争がないだけでなく、ついに真の平和が実現したのだ。戦争は採算が合わなくなる一方で、平和からはこれまでにないほどの利益が挙がるようになった。これらを受けて、私たちは以前より幸せになっただろうか。

11.家族やコミュニティについて

・家族やコミュニティは、富や健康よりも幸福度に大きな影響を及ぼすようだ。

・過去二世紀の物質面における劇的な状況改善は、家族やコミュニティの崩壊によって相殺されてしまった可能性が浮上。だが、何にも増して重要な発見は、幸福は客観的な条件、すなわち富や健康、さらにはコミュニティにさえも、それほど左右されず、幸福はむしろ、客観的条件と主観的な期待との相関関係によって決まる。

・第三世界における不満はおそらく、貧困や疾病、腐敗、政治的抑圧ばかりでなく、先進国の標準に接することによっても助長されうるのではないだろうか。彼らが比較対象にしていたのは、ファラオ治世下の祖先ではなく、オバマ政権下のアメリカで暮らす同時代人。

・今度は化学から幸福を見てみる。人間を幸せにするのは、ある一つの要因、しかもたった一つの要因だけであり、それは体内に生じる快感だ。

 

12.与えられた課題

・ホモ・サピエンスは、自然選択の法則を打ち破り始めており、知的設計の法則をその後釜に据えようとしている。

・第20章のタイトルは「超ホモ・サピエンスの時代へ」。「ホモ・サピエンス」は、ラテン語で「賢い人間」の意味。したがって「超ホモ・サピエンス」は、「超・賢い人間」という意味。

・以上より、サピエンスはいずれシンギュラリティ(特異点)に至る。そのときどうするかを今から考えておきなさい、という課題を与えられたと理解した[EA]。

 

13. 与えられた課題に対して

先ずは「足るを知る」を日々心がけます。その上で、時間を作って『「サピエンス全史」をどう読むか』『ホモ・デウス-テクノロジーとサピエンスの未来(上)(下)』を読み、更に考えてみようと思います。