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谷川浩司(2021)『藤井聡太論-将棋の未来-』読了

筆者である谷川浩司は、中学生でプロ棋士になり、「光速の寄せ」で一時代を築いた名棋士です。現在も現役で活躍する谷川が、藤井聡太をどう論じているのかに関心を抱き、本書を手に取りました。

谷川は、藤井の強さを、将棋と考えることが大好きなことを土台とした、思考力・集中力・探究心・対応力・柔軟性(大局観)にあると言います。同時に、現代においても、将棋に対する取り組みや礼儀作法は重要である、と説いています。この点、藤井は、谷川との対局の日、いつも谷川より先に到着しているそうです。なるほど、先日の藤井による最年少四冠達成も頷けるところです。

出所:2021年11月13日付日本経済新聞 将棋・藤井三冠が竜王奪取 最年少19歳で四冠: 日本経済新聞 (nikkei.com)

ところで、本書において谷川は、2つの主張をしています。1つは、プロ棋士は、「研究者」「勝負師」「芸術家」の3つの顔を持つべきというものです。その中で現在は、AIの台頭によって「研究者」の側面が強くなっていると指摘しています。もう1つは、プロ棋士の強さを最も正確に表すのは、「勝ち越し数(=勝ち数-負け数)」というものです。実際、歴代の勝ち越し数のトップ3は、羽生善治・大山康晴・中原誠(の順)だそうです。谷川の将棋観と独自の視点を興味深く感じました。

また、現在の将棋界をカオスとしつつ、「面白い将棋」を指すことがプロ棋士の存在意義だと結論づけています。ここでやや気になったのは、AIとの関係性です。谷川も、AI時代に突入すると積み上げた「事前準備」と「状況判断能力」が勝敗を分けると述べています。仮

に、「研究者」における「事前準備」の比重が高まり、ひたすら記憶する-詰め込む-ことによって、限りなくAIに近い(能力を持った)プロ棋士が登場したとします。その場合は、序盤・中盤・終盤を通して、「状況判断能力」はシンプルな「あてはめ」に置き換わるのでしょうか。その状況において、「面白い将棋」をどう指しうるのか?という点は気になりました。