· 

コリン・メイヤー、宮島英昭[監訳]・清水真人[訳]・河西卓弥[訳](2021)『株式会社規範のコペルニクス的転回-脱・株主ファーストの生存戦略-』読了

筆者は、フリードマン・ドクトリンと呼ぶ投資家資本主義-企業は株主のためにあり、株主の利益を最大化することが、企業の最高の社会的責任であるという思想-から、多様なステークホルダーに配慮した経営への移行を主張しています。そのポイントとして、①企業の目的は利益にあるのではなく、それぞれが目的を持ち、定款に明示すること、②財務資本(金融資本)だけでなく、人的資本・自然資本・社会資本の価値にも考慮を払うことをあげています。

この点、「企業の存続は、物的資本と金融資本だけでなく、自然資本、人的資本、社会資本にも同様に大きく依存している。長期にわたり企業が成長するには、物的資本と金融資本だけでなく、すべての資本がバランス良く成長する必要がある。」(249頁)というのは、そ

の通りだと思います。

同時に、(民間)企業の目的は、長期的な利益最大化・長期的な企業価値拡大および納税だと解されます。であれば、筆者の主張も、企業の本分-定款に従う企業活動を通して利益を最大化し税金を納める-を全うすることで達成し得るのではないか?という素朴な疑問が生じます(筆者も「規制の目的はゲームのルールを定めることであり、そのルールの範囲内で民間部門がプレーを行う、民間部門の目的は、ゲームのルールの範囲内で利潤を追求することである。」(315頁)と述べています)。

なお筆者は、今後実行すべき5つの会計原則を示しています(271頁)。

1.会社は、人的資本、自然資本、社会資本が当該会社の金銭的成果と並んで会社の掲げる目的の達成に寄与する場合には、物的資本の場合と同様の方法で、これらの資本への投資について記録すべきである。

2.従来からの会計原則と同様に、投資は利潤と会社の掲げる目的への寄与の合計が投資費用を下回る場合を除き、経済的価値ではなく原価で計上されるべきである。

3.人的資本、自然資本、社会資本の維持に要する費用は、維持費として、物的資本の場合と同様に会社の収益から差し引かれるべきである。 

4.会社のバランスシートに記載される人的資本、自然資本、社会資本への投資の価値は、それらの資本の維持費を差し引いて計算されるべきである。

5.同様の方法は、国民純所得および人的、自然、社会資産を企業レベルだけでなく国レベルでも評価するという形で、企業会計の場合と同じく国民経済計算にも適用されるべきである。

これらは会計の新たな領域を切り開く端緒となるのでしょうか。今後を見守りたいと思います。