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原田國男(2017)『裁判の非情と人情』読了

筆者は元東京高裁判事です。筆者の立場は、司法と裁判官は杓子定規ではなく、違法行為であっても人情を大切にすべきというものです。そんな筆者は、全体を通して、平易で分かりやすい言葉で綴っています。率直な心情も吐露しています。その中で印象に残ったのは、次の2点です。

①有罪か無罪の判断は、有罪と断定できるかどうかの判断であるが、裁判における事実認定が難しいのは、真実は神のみぞではなく、目の前の被告人が一番よく知っていること。

②勇気がいるというのは、無罪判決を続出すると、出世に影響して、場合によれば、転勤させられたり、刑事事件から外されたりするのではないかということ。

①については、疑わしきは罰せず(疑わしきは被告人の利益に)という裁判における一丁目一番地の難しさが良く分かりました。②については、筆者自身が20件以上の無罪判決を出した判事であり、「これも、残念ながら事実である」(p.82)と言い切っている点に、当事者としての矜持を感じました。

今回、普段あまり知ることのない裁判について、その一端を垣間見ることができました。有意義でした。