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小熊英二(2022)『基礎からわかる論文の書き方』読了

今年度担当したM2の修士論文・学部4年生の卒業論文の区切りがついたところで、本書を手に取りました。

タイトルは「論文の書き方」です。しかし内容は書き方に留まらず、①論文を書くとは、②論文を書くために大学で学ぶとは、③大学で学ぶ学問とはという点を、丁寧に解き明かすものでした。筆者は、自然科学と社会科学(人文科学)の両方に精通しています。このことが、本書をより興味深いものにしているのかもしれません。勉強になりました。

なお「論文の書き方」については、基本となる型を覚えることを勧めています。先ずアメリカ型のアカデミックライティングを身につけ、次に試行錯誤を繰り返しながら自分の型を模索するというアプローチは、オーソドックスで腹落ちしました。

また筆者は、論文の根幹を「人間が一人でやれることには限界がある。だから書いて、公表し、他人と会話する」ことだと述べています(1) 。アカデミアの片隅に身を置く者として肝に銘じたいと思います。

(1)同時に、こうも述べている(引用箇所を「」書き)。論文はこうすべきだと提言してはいけないとは思わないとしつつ、「しかし本来は、こういう前提のうえに、こういう論拠を積み上げると、こういうことが推論できるというのが論文」だという。また、こうすべきだというのは価値判断が入ることについて、「物事を変えれば、必ずいろいろな結果が生じる。たとえば、100人のうち30人には短期的に悪い結果になるが、長期的には全体にとってよい結果になると推測される、と述べるところまでは、学術論文としていえる。こうすべきだと断言したら、それは価値判断にもとづく決定を下したことにな」り、「特定の方向への提言をしたものが学術的な論文なのかは議論がありうる」という。さらに、「学問としてやったことが、結果として影響する。あるいは影響してしまう」「正しくても誤っていても影響を与えてしまうので」「できるだけ事実に照らして誤っていることは書かないように努める。それが、学者の責任の一つ」だという。