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菊谷正人[編著](2019)『会計学と租税法の現状と課題』読了

本書は、会計学と租税法に関して、研究者や実務家が、それぞれの専門分野における研究内容や実務上の論点について書いた論文集です。構成は、第1部(第1章~第19章)が会計学・第2部(第20章~第38章)が租税法で、500頁近い大著です。取り上げられているテーマは幅広く(1)、僭越ながら、効果的・効率的に「現状と課題」を把握することができました。

例えば、第3章の「中小企業を含む全世界の企業の会計基準の統一化について考察する意味はない。そもそも会計目的が異なるからである。会計目的が異なれば、当然、会計基準も異な」(43頁)り、「IFRSは投資家にとって有用な情報提供のための会計基準である以上、常に投資家視点の、投資家からみた有用な会計基準であるのか、そのスタンスから外れていないか、という観点から議論すべきであり、わが国からの意見発信がそのスタンスから外れてしまっては、議論はかみ合わない。」(52頁)という考察に同意します。「天下ノ事會計ヨリ重キハナシ」(2) は、「明治6年12月に刊行した『銀行簿記精法(The Detailed Method of Bank Bookkeeping)』の序文の冒頭に監修者の紙幣頭・芳川顕正によって書かれたらしい」(5頁)というtipも興味深く感じました。

(1)【第1部】第1章わが国財務会計制度における国際化の経緯と課題、第2章ミクロ財務的観点とマクロ経済的観点の統合、第3章わが国からみた今後のIFRSとの対峙、第4章建築物の所有権と工事契約会計、第5章私立大学会計の本質と課題、第6章実体資本維持論に関する一考察、 第7章ブロックチェーンにおける三式簿記の意義、第8章財務報告の境界と経営者による業績指標の開示規制、第9章のれんに関する税効果会計の論点、第10章ビッグデータ・AI と監査の品質の向上、第11章会計上の見積りにおける監査証拠の評価、第12章収益認識会計基準導入にかかる簿記的考察、第13章企業実体維持と損益計算、第14章政府会計における非交換取引収益の認識、第15章実態開示型時価主義会計における二分類、第16章段階取得に係る会計処理における現状と課題、第17章完全情報ゲーム化する財務諸表監査に関する展望、 第18章戦前期におけるわが国会計制度に関する一考察、第19章有形固定資産の交換による取得原価の算定。【第2部】第20章国際課税における現状と課題、第21章生命保険契約に関する課税上の取扱い、第22章国税通則法改正以後の税務調査手続の問題点、第23章法人税法における貸倒引当金の意義、第24章消費課税の現状と課題、第25章中国の企業所得税法における変遷と特徴、第26章相続・贈与等の富の移転に係る課税における課題、第27章代償分割による取得資産の譲渡課税における現状と課題、 第28章自己株式のみなし配当課税における現状と課題、第29章有料老人ホームの入居に伴う課税問題、第30章DESの課税における現状と課題、第31章繰越欠損金に対する税務処理における現状と課題、第32章書面添付制度の現状と課題、第33章土地の取得費の課税に関する一考察、第34章消費税の軽減税率制度導入に伴う課題、第35章法人税法における中小法人の取扱いにおける現状と課題、第36章小規模宅地等の特例に関する一考察、第37章交際費課税の変遷と課題、第38章将来における税理士の役割。

(2)これを記した看板が、JICPA会館がある地下鉄市ヶ谷駅にある。