· 

M&A(合併・買収)に関する情報開示の拡充要請

IASBは、IFRSを適用する企業に対して、M&A(合併・買収)に関する情報開示の拡充要請を行うそうです。出典:2023年6月10日付日本経済新聞電子版M&A効果、開示義務付け 国際会計基準審議会 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

ここでIASBは、買収額と買収先企業の純資産の差額であるのれんについて、2022年11月、定期償却を求めず、買収先の価値が帳簿価額を下回った場合に減損処理する現行ルールの維持を決めました。その理由として、①会計処理のルールを変えなければいけない説得力のある証拠がなかったこと、②米国が自国の会計基準でのれん定期償却の導入議論(1)を取りやめたことが挙げられています。しかし、①世界の約37,000社ののれんは、2022年末で約9.5兆ドル(約1,300兆円)と10年で5割増え純資産の19%にあたること、②経営者の楽観的な見通しにより、のれんの減損処理は遅れがちだとされ、米国の2021年度における純資産に対するのれんの割合は4割になることは、どちらも「説得力のある証拠」に当たらない?いう素朴な疑問が生じます。

ところでIFRSは、のれんの定期償却を義務づけておらず、買収先企業の収益性が低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合に減損処理します。しかし定期償却しないため、のれんの残高が積み上がり、世界景気が悪化した際などに多額の減損計上が相次ぐおそれがあります。このような資本市場に混乱をもたらし得るシステミックリスクへのIASBの対応方針は「情報開示の充実」です。したがって今回の「拡充要請」は既定路線と解されます。

これに対して日本の会計基準は、①のれんの定期償却を義務づけ、②のれんの減損処理規定もあります。投資家を含む全ての利害関係者にとって望ましい財務報告は、どの会計基準によるのか、改めて吟味する良い機会かもしれません。

(1)ただし非上場企業は、のれんの償却が認められている。償却期間は10年以内。