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円谷昭一 [編著](2018)『コーポレート・ガバナンス「本当にそうなのか?」大量データからみる真実』、同(2023)『同 2』読了

筆者は、コーポレート・ガバナンスに関する自らの問題意識および違和感に従って、本書を上梓されました。

先ず、おそらく誰もが薄々気づいてはいたけれど、誰も口にしなかった(筆者の問題意識および違和感が通底する)疑問を正々堂々と取り上げ、次に、わが国における全上場企業を対象とする実証研究を平易かつ丁寧に行い(1)、最後に、日本型コーポレート・ガバナンスの特長を浮き彫りにした上で、通説とは異なる事実を示しておられます(2)(3)

どれも興味深く目から鱗でした。特に、「業績に関する目標値が未達であっても、株主還元の目標値だけはしっかりと達成されているのである。」という指摘(2018、p.116)は、先日取り上げたスズキトモ先生の主張と整合的であり、興味深く感じました。改めて、理論と実証は、研究の両輪であることを実感しました。今後に活かせればと思います。

なお、この分野は専門外かつ勉強不足です。しかし、本書で浮き彫りにされた様々な通説とは異なる事実に対する次の一手は、やや総花的な印象でした(4)

(1)筆者の研究室の学生を含む人海戦術的な分析にとどまらず、海外の開示データとの比較検討も行われている。

(2)2018:「このように、監督機能と助言機能とでどちらが優先されるかについては見解の相違がある。本章で関心があるのは、この両機能は、それが発揮されるまでの時間に違いがあるのではないか、という点である。」(p.20)、「序章で本書の問題意識を述べたが、各国の証券取引所の上場会社の共通特徴として、一部の大企業が市場全体の時価総額の多くを占めているという事実がある。日本では法制度の新設・改訂が上場会社すべてにすべからく適用される、という特徴がある。」(p.96)。

(3)2023:「社外取締役1人当たりの平均報酬額は単純平均で1,420万円、基本報酬だけでも1人当たり、1,220万円である。」(p.7)、「報酬=責務x能力。」(p.10)、「米国は他国を引き離す水準にあるが、その他の主要国に限定して比較すると日本企業の報酬額は低い水準にあるわけではないことが浮き彫りになった。CEOとのペイ・レシオを尺度とすれば、他国と比べて日本企業の社外取締役の報酬が相対的に高い水準にあるという見方もできなくもない。」(p.31)、「武井一浩弁護士は独立役員の定義について「要はモノを申してクビになっても大丈夫な人」とかみ砕いて説明している。」(p.36)、「全体的に見ればやはり米国企業の開示が進んでいるように見えるが、繰り返すが、両国の開示制度の違いによって生じている部分が大きいと思われる。また、米国企業において時価総額が比較的に小さいNASDAQ下位の企業では各社のプロクシー・ステートメントの内容が非常に似通っており、開示内容も少ないという傾向が調査を通じて浮き彫りとなった。一方でダウ30企業では詳細かつ読み手を意識した開示がなされており、これは日本におけるコーポレート・ガバナンス開示の制度を考える際に示唆を与える。つまり、上場会社全体で開示の底上げを図るのか、それともプライム市場の上場会社などグローバル企業中心での開示充実を図るのかといった政策議論を進める必要があろう。」(pp.58-59)、「・・・それよりもまずは自分の言葉で書くこと(=定型文からの脱却)が日本企業にとっての優先課題となろう。」(p.67)、「・・・第一線を退いた人材にとっては社外取締役の報酬は魅力的に映るかもしれない。そして、いかにして来期も再任されるかを第一に考えるようになると、独立性が実質的に失われる可能性すらある。」(p.112)、「「日本人」「男性」「年輩」という画一性のもとでの意思決定がシステムとして・・・高齢の経営者積極的な設備投資やレバレッジを効かすことを好まず、一方で現預金を貯めたがる傾向があり、業績も想定的に劣るという実証研究もある。」(p.113)。

(4)「これまでの成功体験や築き上げられたシステムの継続に囚われることなく、変えるべきところは変える、変えない(守る)ところはこれからもしっかりと守る、という意識を持つことが日本には求められている。」(2023、p.159)。