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S.H.ペンマン、杉本徳栄・玉川絵美[訳](2021)『価値のための会計:賢明なる投資家のバリュエーションと会計』読了

 

本書は、コロンビア大学のペンマン教授による『Accounting for Value』の日本語訳です。

1.ペンマンは、投資の観点から会計を論じており、そこでは、(会計情報を通じて知っている)事実と(期待成長率などの)予測を区別することの重要性を説いています。具体的には、①残余利益モデルを用いて、②ファンダメンタル分析を理論的に展開し、③米国企業で実証しています(1)

2.ペンマンは、「本書では、できるだけわかりやすく簡単な言葉で語ることを心がけ」(p.14)「貸借対照表や損益計算書がどのようなものかを理解する以外には、会計に関する知識はほとんど必要ない」(p.15)と述べています(2)。豊富な訳注も助けになりました(3)

3.ペンマンは、ファンダメンタル投資では、価値(Value)を説明することが重要であることから、会計に求められるのは、残余利益モデルに基づく、事実を示すB/Sと予測に役立つP/Lだと主張しています(4)

本書を通じて、①価値評価における会計の役割を理解し、②会計基準のあるべき姿に関する示唆を得ることができました。興味深い1冊でした。

(1)ファンダメンタル投資においては、①価値(Value)と価格(Price)は異なり、②価値は残余利益モデルなどの株式価値評価モデルに会計情報をインプットすることによって算出されるが、価格とは乖離する。

(2)ただし、「投資についてある程度の知識があることを前提としている。」(p.15)。

(3)とはいえ、後半の3章(第6章「リスクとリターンを評価するための会計」、第7章「成長を価格設定する」。第8章「公正価値会計と価値のための会計」)は難易度が高かった。

(4)例えば、事実に基づかない無形資産や公正価値のB/S計上について、慎重な立場である。