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マイケル・ルイス、中山宥[訳](2021)『最悪の予感-パンデミックとの戦い-』読了

本書は、アメリカにおける感染症対策を描いたノンフィクションです。記憶に新しい新型コロナウイルスについては、後半で論じています(1)

筆者は、世界一の予算・世界一の人材・世界一の体制を擁していた(はずの)アメリカが、新型コロナウイルス感染の封じ込みに失敗したのは、Centers for Disease Control and Prevention(アメリカ疾病予防管理センター、以下CDCという。)が、本来期待されている司令塔的役割を果たさなかったばかりか、現場の(医師や保健衛生行政官の)足を引っ張ったからだとしています(2)

これが事実だとすると、当時、主にCNNの報道を通じて抱いたCDCへのイメージが変わるかもしれません。また、①優秀な現場が日本の強みだと言われるがアメリカも同様かもしれない、②本書が出版された2021年7月は未だコロナ禍だった、③日本でも有名になった数理計算モデルはアメリカの中学生が発案者(3)、④Layer6という法則がある(4)といった点を興味深く感じました。

洋の東西を問わず、結局は人ということなのかもしれません。

(1)前半は(新型コロナウイルスを含む)感染症対策に携わり、本書がフォーカスした人々の前日譚。

(2)理由として、①現場感覚のなさ、②官僚的な事なかれ主義、③政治的配慮による判断の歪みが挙げられている。

(3)発案者はニューメキシコ州の中学生で、科学者の父と感染拡大の計算モデルを作り、改良を重ねた結果、高校生のとき同州の科学コンテストで最優秀賞を受賞した。

(4)どんな組織でも危機を解決するのは無名の従事者で、上から数えて6つ目という低いlayer(階層)に属することが多いという法則。Amateur疫学者・DIY研究室という言葉も紹介されている。