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石川純治(2018)『基礎学問としての会計学-構造・歴史・方法』読了

本書は、実務性の強い会計学において、アカデミズムのあり方・存在意義を一貫して研究してきた筆者の集大成です。実際、引用文献1つとっても相当な分量(1)でした。しかし、何とか読了しました。以下は読後感です。

第1に、最も印象に残ったのは、現在の会計枠組みに関する次の見立てです。「すなわち、現行の原価・実現主義を基礎におく成果計算は、端的にいって、モノ・サービスの生産・販売という実物経済活動の損益計算が想定されており、そこに今日のより高度化された金融経済活動の損益計算を取り込むことには本来的に無理があ」り、「今日の公正価値(時価)会計にとって伝統的な損益の認識要件はもはや必要とされない」(p.50)。現実社会の裏側にあるものに目を向けて構造を論じることで、研究対象を浮き彫りにすることの重要性が良く分かりました。

第2に、CF計算書をB/S・P/L同様、複式簿記の仕組みからとらえようという研究(2)を興味深く感じました。私自身、CF計算書といえば、①間接法を採用し、②PLの税金等調整前当期純利益からスタートし、③B/Sの増減を加えて作成するものという固定観念があったからです。

第3に、筆者の好奇心と博覧強記に驚かされました。40年という年月をかけて積み上げた凄みを感じました(3)。一方、僭越ながら、会計プロフェッションとアカデミズムを切り分けて、二項対立的にとらえるアプローチ(4)は、検討の余地があっても良いように思いました(5) 。本書は会計プロフェッションにとっても有意義ではないかと考えるからです。

(1)引用文献一覧はpp.293-306。

(2)主に第8章「資金計算書発展の歴史と構造」、第9章「複式簿記の歴史分析と構造分析」。

(3)一方、「筆者はこと会計学に関して『学者』などという言葉はおこがましいので、自分が会計学者とはとても言えない」(p.231)と述べておられる。

(4)主に第Ⅲ部「会計研究の方法」。

(5)ただ、「会計学のような実学性の強い分野にあって、その『学問性』をどこに求めるかを真に問う」(p.214)ていることから、止むを得ないのかもしれない。