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久保淳司(2020)『危険とリスクの会計-アメリカ会計基準の設定過程を通じた理論研究』読了

前職では入社以来、米国の会計基準と会計実務に携わっていました。したがって、本書のサブタイトル「アメリカ会計基準の設定過程を通じた理論研究」は興味深く、以前から読みたいと思っていました。しかし、①能力不足に加えて、②(本書が)600頁を超す学術書であることから中々進みませんでした。今般ようやく読了しました。

筆者は、企業活動における様々なリスクを財務諸表に計上する理論的根拠を示すために、SFAS5「偶発事象に関する会計」とSFAS143「資産除去債務に関する会計」を中心に検討されています。そして、型の異なるSFAS5(1)とSFAS143(2)という2つの会計基準が併存することで、「受動的な片側リスクにはソレイユ型の会計処理を適用し、能動的な両側リスクにはリュンヌ型の会計処理を適用することによって、より広い範囲の負債あるいは損失の早期認識が可能になることが確認できる。」(p.516)と述べておられます(3)

本書において筆者が、①最終的に公表された会計基準にとどまらず膨大な資料(4)を渉猟され、②型の異なる2つの会計基準の存在を発見し、③オリジナリティに富む結論を導出されたことは、(僭越ながら)素晴らしい研究成果です。

もちろん筆者と同じことは(とても)出来ません。しかし理論研究において、①徹底して調べ、②丹念に考察し、③本質を探究する姿勢は見習いたいと思います。

(1)ソレイユ(太陽)型。従前の会計処理を採用し、将来支出の要否が不明な偶発損失を対象とする。

(2)リュンヌ(月)型。新しい会計であり、将来支出は確実だが、時期・金額・相手先が不確実な不確定債務を対象とする。

(3)その理由として、「受動的な片側リスクと能動的な両側リスクでは蓋然性と債務性の時期が相違するため、蓋然性が債務性に先行する受動的な片側リスクはソレイユ型でのみ認識の早期化が達成され、逆に、債務性が蓋然性に先行する能動的な両側リスクはリュンヌ型でのみ認識の早期化が達成されるからである。」(p.516)と説明されている。

(4)例えば、会議の議事録・ディスカッションメモランダム・公開草案とそれに対するコメントレター・公聴会や円卓討論会の資料など(の一次資料)。