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本田桂子・伊藤隆敏(2023)『ESG投資の成り立ち、実践と未来』読了

ESG投資という言葉を良く耳にします。実際(ESG投資を含む)ESGについては、このブログでも何度か取り上げています(1)。しかしそもそもESG投資とは?さえ解っていないことから、本書を手に取りました。大変興味深い一冊でした。

第1に、ESG投資について、①定義の曖昧さ、②データの信頼性や比較可能性の困難さといった現状の問題点を指摘した上で、ESG投資の定義を以下の通り示しているからです。

「これまで企業価値に十分織り込まれてこなかった環境E・社会S・ガバナンスG等の非財務ファクターの重要性の増大に鑑み、投資家が、長期的視点をもって、ESG等の非財務ファクターを(法改正の予想・新規事業機会等を含め)投資判断に織り込み、リスクをマネージしつつリターン向上をめざす投資。加えて株主としてのエンゲージメントを通じ企業の経営判断に影響を与えることで、企業価値向上もめざす。」(p.23)

なるほど、「ESG投資はあくまで長期リターンの向上を目指す」(p.210)という整理はすっきりします(2)

第2に、ESG投資との比較の観点から、類似の投資概念であるインパクト投資・サステナブル投資・リスポンシブル投資・社会的責任投資などについて説明されているからです。確かに、説明はあくまでESG投資者側の視点です。しかし、①参照論文が明記されており、②主要投資家35社へのインタビューも行われていることから理解を深めることができました。

第3に、(第13章今後の発展で)会計基準がたどった経緯についてふれているからです(3)。外部の専門家が会計基準の国際化をどう見ているのかを知る貴重な機会となりました。

(1)例えば、米国フロリダ州で反ESG法が成立ESGという言葉

(2)同じ趣旨で、「社会に貢献するからESG投資ではなくて、リスク対比リターンを長期的には向上できるからESG投資なのであった。」(p.108)、「・・・ESG投資は、投資家が自らの役割であるより高いリターンをめざし、ESGといった非財務ファクターを投資判断に織り込むというものである。そして、社会課題の改善は一義的な目的ではなく、あくまでも副産物である。」(p.117)という説明がされている。

(3)次のように述べられている。「その際に、会計基準がどのような経緯をたどったかは、よく理解しておくべきことであろう。国際的に会計基準を統一しようという考えのもとIFRS基準ができたが、日本は、当初は国際的な統一会計基準に移行する意図はあったものの、結果として、執筆時点では残念ながら、米国も日本もまだ過半の企業は、各国の会計基準を使用している。総論賛成だが各論反対は、ESG等非財務ファクターデータ開示でも起きうる。これをどうマネージするかは非常に重要である。特に、米国は企業価値に影響のあるようなデータの開示というESG投資の考えに沿うシングルマテリアリティであるが、欧州は、企業価値に加えて社会へのインパクトも考えてのデータ開示というダブルマテリアリティを志向する可能性もかなりある。IAASは、現在のところシングルマテリアリティであるが、本部も欧州で、ISSB議長も欧州から選出されており、今後の最終決定まで注意深く見守る必要がある。」(pp.233-234)。