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米企業 多様性より収益性

キング牧師誕生記念日(1月15日)に絡んだ週末、米4大会計事務所の1つであるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)が、米国で多様性(ダイバーシティー)に関する目標の一部を廃止すると発表したそうです(1)。出典:2024年1月26日付日本経済新聞電子版[FT]米企業、多様性から収益性へ ラナ・フォルーハー - 日本経済新聞 (nikkei.com) 

本件発表を紹介した記事は、「問題は、近年、特に米国において、DEI(2)が過度に政治的な道具となり、企業の見かけを良くするために使われていることだ。」と指摘しています。

確かに、①フロリダ州における反ESG法の成立、②ESGという言葉への懸念といった動きは、指摘を裏付けるものかもしれません。しかし、多様性のもたらす恩恵が明確(3)だとすれば、①肝心な基準について明確かつ事実に基づく情報がないまま包摂性の考え方を受け入れる姿勢、②取り組みにはどんな意味があるのか、数値化できるのか、③多くの取締役会がこれらのプログラムの成果を求めているが数値化には成功していない、といった現状に目を向ける必要があるのかもしれません(4)

この点、「数値化」をESG投資に引き寄せて考えると、①ESG投資はあくまで長期リターンの向上を目指すもの、②ESG投資は投資家が自らの役割である、より高いリターンを目指しESGといった非財務ファクターを投資判断に織り込むもの、③ESG投資による社会課題の改善は一義的な目的ではなく副産物という整理は腹落ちします(5)

したがって(米企業に限らず)企業には、「多様性より収益性」という二項対立ではなく、三方良しの考え方(6)に基づき、利害関係者とwin-winの関係を構築する努力が求められていると思います。

(1)同社は今後、奨学金の貸与やインターンシップで受け入れる学生の選考に際し、人種に関係した基準を使わない。

(2)Diversity(多様性)・Equity(公平性)・Inclusion(包摂性)。

(3)やや長いが引用する。「念のために言えば、基本的に多様な労働力が恩恵をもたらすことを疑う者は誰もいない。長期にわたる大掛かりな調査は、多様性に富んだ企業は収益力が高いことを示しており、特に経営陣の多様性が高ければ、その傾向が強まる。この点ははっきりしている。顧客やサプライヤーの高い多様性に対応して従業員が多様化すれば、その企業は市場で好業績をあげられる。」

(4)記事では、「企業は見せかけだけの行動ではなく、真の多様性を実現する方法について真剣に考えることを迫られる。」と小括している。

(5)2023年12月28日付弊ブログ「本田桂子・伊藤隆敏(2023)『ESG投資の成り立ち、実践と未来』読了」参照。

(6)「売り手によし、買い手によし、世間によし」という近江商人の経営哲学。