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ウィリアム・R・スコット/パトリシア・C・オブライエン[著]、太田康弘/椎葉淳/西谷順平[訳](2022)『新版 財務会計の理論と実証』読了

本書は、カナダ公認一般会計士協会(CGA:Certified General Accountants of Canada)における財務会計理論コースの講義ノートに基づく財務会計のテキストです。

内容は、①財務会計における実証研究の考え方・理論が丁寧に説明され、②最近の研究成果がカバーされています。③グローバルベースで財務会計が果たす役割についても解説されており、大変勉強になりました(1)。今後の研究・教育に活かしたいと思います。

最後に、事前の予想(2)を良い意味で裏切ってくれた部分を(少し長くなりますが)下記しておきます。

a)多様性

同一の会計実務を強制する基準によって経営者のシグナリング能力が損なわれてしまうという議論は、基準設定において重要である。・・・シグナリング理論の観点からすると、多様性はそれほど悪いものではない。会計方針の選択が、企業についてのシグナルとして信頼できる情報を生むのであれば、会計実務の多様性は望ましいものとなるからである。・・・会計方針の選択による利益マネジメントのためには、会計基準に会計方針の選択肢が十分用意されていることが必要である。シグナリング理論は、会計方針の選択肢を削減していっている現在のような会計基準の改訂に対して反論を提供しているのである。(pp.502-503)

b)規制

規制が万能薬ではないという点を認識しておくのは重要である。なぜなら、規制にもコストがかかるからだ。・・・現在のところ、どの程度の規制であれば、その便益がコストを上回るのかについてはわかっていない。セカンド・ベストの定理によれば、今後もわかることはないだろう。ただし、報告基準をみたす方法について、企業にいくぶん柔軟性を与えることには価値があると考えられる。(p.528)

c)高品質(Ⅰ)

質の高い基準がそれだけで財務報告を改善することが当たり前ではないことを示唆している。(p.553)

d)競争

少なくとも、競争は、規制の利益団体が予測していたように、独占的な会計基準設定機関が社会的に最適なレベル以上に基準を設定しまう(原文ママ)という傾向を抑制するはずだ。(p.565)

e)高品質(Ⅱ)

強調しておきたいのは、北米に比べて質が低いと思われる財務報告が必ずしも機会主義的なものというわけではなく、むしろ、慣習や制度構造、政府の関与、実効性の確保の違いが効率的に反映されているかもしれないという点だ。・・・しかし、質の高い基準を採択するだけで質の高い報告が達成されるわけではない。なぜなら、どのような会計基準であっても、会計方針の選択にはかなりの裁量が認められているからだ。基準の適用にあたっては、厳格な規制環境と監査人の責任によって実効性が確保されていなければならない。(p.567)

(1)原著を読み解く能力はない。訳者の先生方に感謝したい。

(2)研究対象がカナダとアメリカなので、IFRSに近い内容なのでは?というイメージ(先入観)を持っていた。