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大鹿智基(2023)『非財務情報の意思決定有用性』読了

この本は、ESG投資をキーワードに、企業が開示すべき非財務情報について、実証分析を通じて具体的な候補を示す研究書です。

第1に、検証モデル(1)が分かりやすく丁寧に説明されていることから、(私のような実証分析の専門家でない者でも)何とか読み進めることができました。勉強になりました。第2に、具体的な候補として挙げられている、E(環境)における気候変動対策とその関連情報・S(社会)における従業員と租税回避行動に関する情報・G(ガバナンス)における株主総会に関する情報は、(私のような素人の)直感に(も)叶うものでした。ありがとうございました。

一方、「投資家の目的は自らの投資収益(より正確にはその投資収益から得られる効用)を最大化することである」(p.178)ならば、開示情報から企業活動の実態を推測し自らの意思決定に役立てたい投資家は、信頼性の高い情報を求めていると思われます。第3に、現時点では信頼性や整合性に課題を有すると解される(2)非財務情報(サステナビリティ情報)を、投資家は(どの程度)求めているのだろうか?という素朴な疑問が残りました。

(1)例えば、①配当割引モデルは、「企業の株価が、将来の無限期間の配当を現在価値に割り引いたものの総和で表現される。さらに、効率的市場を家庭することによって、株価は1株あたり企業価値として近似する・・・株主にとっての企業価値が、将来の無限期間にわたる配当の割引現在価値の合計として表現されることを示している」(p.53)、②残余利益モデルは、「株主にとっての企業価値を、評価時点における純資産簿価と、それ以降の無限期間にわたる残余利益の割引現在価値の総和との合計として表現するモデルであ」り(p.53)、「評価期間全体で見れば残余利益の現在価値合計額は等しくなること」から、「残余利益モデルによる企業価値評価は会計方針の影響を受けないといわれる」(p.56)と説明されている。

(2)例えば、「より精緻な分析のためには、実際の株主総会の様子を確認する必要があると思われる」(p.188)、「アクルーアルズが情報利用者に対する有用な情報の源泉となるのか、それとも経営者の機会主義的行動を反映したノイズになるのかは、ひとえに経営者の意識に依存すると考える」(p.191)、「その意味では、過重負担に終わってしまうのか、企業価値の向上につながる契機とできるのかは企業の取り組み方しだいではないだろうか」(p.232)、「本書で扱えなかったもう1つの論点は保証に関する問題である」(p.233)と述べておられる。