· 

ウィテカー・モーリーン[著]、高尾菜つこ[訳]・日暮雅通[監修](2023)『シャーロック・ホームズとジェレミー・ブレット』読了

この本は、英国グラナダTVが製作した全41話のテレビドラマ『シャーロック・ホームズ シリーズ』において、シャーロック・ホームズを演じたジェレミー・ブレッドについて、各話ごとに関係者のコメントや当時のエピソードを紹介しています(1)

私はシャーロキアンと称されるマニア(専門家)ではありません。しかし『シャーロック・ホームズ シリーズ』は(全て)原作を読み、NHKで(何度も)観ています。とはいえ、これまでジェレミー・ブレッドのことは、ほとんど知りませんでした。したがって全てが興味深く、読み応えがありました(2)。特に様々なプレッシャーにさらされていたジェレミー・ブレットが、シリーズ後半は命を削りながらホームズを演じていたことは印象に残りました(3)。原題の通り、”Jeremy Brett is Sherlock Holmes”だったのでしょう。

『シャーロック・ホームズとジェレミー・ブレット』の関係は、例えば、ポワロとデビッド・スーシェの関係とは少し異なるようです(4)。しかしそもそも比較するものではありません。それぞれの経路(・努力(5))で責任を果たし、長く人々の記憶に残る作品を残したという事実に変わりないからです。貴重なバイブルを手に入れることができて良かったです。

(1)各話の制作過程や当時の状況についても解説している。

(2)挿入されている写真が、印象的なシーンを思い出させてくれることもあった。

(3)ジェレミー・ブレットは第6シリーズ終了後の1995年、心不全のため61歳で死去した。したがって(ジェレミー・ブレットによる)原作全ての映像化は叶わなかった。

(4)例えば、訳者あとがきで、「スーシェが最終話『カーテン』までの全70編を演じきり、輝かしい賞の数々を受賞して、2020年にはイギリス王室からナイトの称号まで受けたのに対して、ブレットはシリーズの途中でこの世を去り、俳優としての功績を一度も公に認められなかった」(p.446)、「スーシェが温かい家族に支えられ、最後まで円満にポワロに添い遂げた一方で、シリーズ後半のブレットはまさしく身を削るようにして演技を続け、ときにその姿は痛々しいほどだった」(p.447)と書かれている。

(5)ジェレミー・ブレットは一貫して原作を拠り所としていた(p.213)。デビッド・スーシェはアガサ・クリスティーの原作を全て読み、(ポワロの)歩き方・話し方・習慣を自分のものにしていた。