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高田知実(2021)『保守主義会計:実態と経済的機能の実証分析』読了

本書の研究対象は、保守主義の原則(1)が、①どの程度採用されてきたか(2)、②どのような経済的機能を有するか(3)という点です。

先ず日本の保守主義の程度については、バブル崩壊後に高まったものの2010年頃をピークにその後は減少に転じていることが解明されています(4)。次に日本企業の銀行借入は、ハード情報の相対的重要性が高い都市銀行では、借入金比率が高いほど企業に求める保守主義の程度が高まることが解明されています(5)

本書は敷居と難易度の高い実証分析の学術書でした。しかし、①主として(周知の)Basuモデルが採用されていること、②用語の定義やデータの妥当性が明確かつ分かりやすく説明されていること、③終章(結論と課題)で第Ⅰ部と第Ⅱ部における分析結果を発見事項として要約されていることから、何とか最後まで読み通すことができました。

保守主義は学術的にも実務的にも興味深いテーマです。少しずつ力をつけられればと思います(6)

(1)企業会計原則は、一般原則の六で、「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない」と定めている。また注解4で、「企業会計は、予測される将来の危機に備えて、慎重な判断に基づく会計処理を行わなければならないが、過度の保守的な会計処理を行うことにより、企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめてはならない」と定めている。

(2)第Ⅰ部(保守主義会計の実態に関する分析)。

(3)第Ⅱ部(保守主義会計の経済的機能に関する実証分析)。

(4)国際分析の結果、保守主義会計は多くの国で観察され、保守主義の程度は時系列で異なることも解明されている。

(5)これに対して、ソフト情報の相対的重要性が高い(都市銀行以外の)銀行では、保守主義の程度は高まらないことが解明されている。また保守主義の程度とコーポレート・ガバナンスの関係についても示されている。

(6)学術書の再読も課題である。