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弥永真生(2022)『中小企業会計とその保証』読了

本書は、主に税理士志望の社会人学生の皆さんとの大学院における授業を通して生まれた問題意識(日本の中小企業における計算書類の信頼性を確保するためにはどうしたら良いか)(1)に基づいて手に取りました。

筆者は、第1部で問題の所在と検討方針を述べられた上で、第2部で世界各国の中小企業会計について、第3部ではその信頼性を確保するための措置について検討・分析されています。実際対象の国や地域は多岐にわたります(2)。しかし1つ1つ真正面から丁寧に取り組まれ、詳細かつ分かりやすく説明されています。したがって(700頁超の大著ですが)私のような門外漢にも何とか読み解くことができました。

日本の中小企業における計算書類の信頼性を確保するためにはどうしたら良いかという問題意識に対しても、「中小企業に分類されているものの実はそのように呼ぶことが適切ではない会社が増えています。すなわち、減資する会社が増加しており、資本金額は少なくとも、売上高や従業員数の多い会社は存在し、負債総額200億円という基準だけでは不十分です。法定監査の対象となる会社を資本金額ではなく、総資産額、売上高、従業員などに着目して、合理的に定めることが必要で」あり、「コストやリソースの観点から、法定監査の対象とすることは適当ではないが、企業を取り巻く利害関係者の利益及び国民経済の持続可能性の確保の観点から、計算書類の信頼性が求められる会社をターゲットに保証水準が監査よりも低い保証サービスが広く提供される仕組みが検討されるのが望ましいと」いうお考えは、示唆に富むものでした。ありがとうございました。今後の糧とさせて頂きます。

(1)院生によれば、中小企業(上場企業の子会社は除く)の現場では、税務申告を念頭に計算書類を作成することがほとんどの由。

(2)アメリカ・連合王国(イギリス)/アイルランド・EU・ドイツ・フランス・オランダ・イタリア・スペイン・ポルトガル・デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・オーストラリア・ニュージーランド・カナダ・スイス・南アフリカに、IFAC/NRF/IAASBが加わっている。