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映画『関心領域』鑑賞

この作品は、アウシュビッツ収容所の所長だったルドルフ・ヘスとその家族(1)が、ホロコーストや強制労働によってユダヤ人を中心に多くの人々を死に追いやった同収容所に隣接する瀟洒な一軒家(2)で、平和な日々を過ごす様子を描いています。

タイトルの「The Zone of Interest(関心領域)」は、第2次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉だそうです。次の2点が印象深かったです。

1.当時のアウシュビッツ収容所内の出来事を映像で描写していない点

映像の代わりに、①得体の知れない重機の音、②引っ切りなしに聞こえてくる銃声や悲鳴、③高い煙突から上がる煙などによって、同収容所における惨状(ユダヤ人収容者の虐殺)が示唆されています(3)

2.関心領域は現代の私たちの問題でもある点

例えば現在、ロシア・ウクライナ戦争(4)とイスラエル・ガザ戦争(5)が継続しています。実際、多くの兵士や市民が亡くなっている状況は、日々ニュースやSNSで見聞きします。しかしその後すぐに、私たちの関心が自分の身の回りの出来事(6)に移っている(戻っている)とすれば、関心領域(の外にある無関心)が現在の戦争を継続させているのでは?という問い(警告)を投げかけられたように感じます。

一方、収容所の外で働くユダヤ人のためにリンゴを埋める暗視カメラの少女が登場するなど人間への期待も垣間見ることができました。しかし、冒頭と最後のどこか不気味な音楽と映像の印象も強く(7)、色々なことを考えさせられる作品でした。

(1)妻と5人の子供。

(2)たくさんの草花が生い茂り、良く管理されたヘス家の美しい庭と収容所を隔てるものは1枚の壁のみ。有刺鉄線が張り巡らされた壁越しに同収容所の見張り塔が覗く。

(3)映画の終盤で、(博物館として公開されている)現在のアウシュビッツ収容所は紹介されている。なおその直前に、ヘスが吐き気を催すシーンは興味深い。

(4)2022年2月24日、ロシア軍がウクライナ国境を越えてからすでに2年3ヵ月が経過した。

(5)2023年10月7日、パレスチナ暫定自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃を端緒に戦争が勃発してから8ヵ月になる。

(6)例えば、身近な人間関係・職場での異動・日々の生活。

(7)昔、怪奇現象を中心としていた頃の「ウルトラQ」を観終わった感じに近い。「ウルトラQ」は「ウルトラマン」シリーズの前身として良く知られている。しかし「ウルトラQ」には正義のヒーロー(ウルトラマン)がいない。したがって「ウルトラQ」を観終わった後にスカッとした気持ちになることは正直なかった。