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高田晴仁(2022)『監査役の誕生-歴史の窓から- 』読了

本書は、日本監査役協会の機関誌である『月刊監査役』に、2015年5月から2021年9月の間、隔月で39回連載された「随筆(1)」をまとめた単行本です。本書が刊行された2022年に社外監査役に選任されたこともあり、以前から関心のある1冊でした。(長い)積読期間を経て、今回読了しました。

第1に、最も印象に残ったのは、わが国における商法の制定過程を丹念に追っていることです。確かに(書名からすると)主人公は監査役です。しかし草案を作成したロェスレル、司法大臣山田顕義、法学者梅憲次郎など多くの人物が、それぞれの立場から商法制定に挑む様子は、あたかも丹念に深堀りされたドキュメンタリーのようです(2)。したがって、ロェスレル・山田・梅らが(実質的には)主人公なのかもしれません(3)

第2に、①ロェスレルがドイツ人で、②草案もドイツ語で書かれたため、商法はドイツの影響を受けているという通説に対して、①ロェスレルはイギリスやフランスの制度にも精通する一流の学者で、②実際当初の監査役会構想は取締役会とのバランスを図ったもので現代にも通じるという指摘は、意外かつ興味深いものでした(4)

第3に、最後の(5) 、「現在は、監査役を残す企業と、監査等委員という名の、いわば「監査役的取締役」に切り替える企業とで分かれてきて」いるが、「ガバナンスの正解という都合のいいものは、世界中どこにもないようで」「どのような制度をもってそれに臨むかにかかわらず、それを担うのは、結局は人で」「制度をどう変えても、監査を担う方々の勇気や技量が必要だということは、何も変わ」らないというメッセージは腹落ちするものでした(6)

おかげさまで、ほんの少し監査役と商法(会社法)のことを知ることができました(7)。勉強になりました。ありがとうございました。

(1)p.499。「はじめに」でも、「こみ入った監査役の誕生と成長を物語るつもりで、随筆風の文章をつづることにした。その分、学問的裏づけは、注記でふれることにしたい」と述べられている。 

(2)随筆やドキュメンタリーというと軽い読み物を想像されるかもしれない。しかし内外の文献が丹念に読み解かれ、豊富な注記を通して学問的裏づけが十分なされている。

(3)少し時間をおいて、商法の誕生という視点から再読してみるのも良いかもしれない。

(4)オリジンが海外といえばIFRSが思い浮かぶ。確かにIASBとロェスレルを比較することはできない。しかし当時の、「日本各地の商慣習の調査は、日本サイドの仕事であり、ロェスレルの職務の範囲外であった。」(p.366)という明確な線引き、「・・・かつ、当然のことながら日本の実情に配慮したものでなければならない。その難しいバランスをとりながら、日本人の手で、日本のために最良の商法をつくり出すという意気込みにおいて、起草委員の梅、田部、岡野は共通していた。」(p.471)という認識は、現代も変わらず求められているのではないか。

(5)Ⅳそして未来(pp.520-525)。

(6)また、「監査役というのは業務執行の適法性の監査をするのだ、また、取締役会は妥当性の監査をするのだという、有名な「適法性監査・妥当性監査」の振り分け論」について、「振り分け論というのは、あくまで事後の視点ですから、事前の監視については振り分けない方が妥当」(pp.516-517)という見解も参考になった。

(7)監査役(会)や商法(会社法)については、企業法の(受験)勉強をしただけのpoor knowledgeである。