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杉田敏(2022)『英語の新常識』、同(2023)『英語の極意』読了

1冊目の『英語の新常識』は、withコロナ・afterコロナのニューノーマル(新常態)として定着した海外の方とのオンラインで感じていた、①使ってはいけない言葉や差別用語を学ぶこと、②若い人が使う表現を学ぶことを目的に手に取りました。

結論を先に述べると、本書で取り上げられた言葉や差別用語、表現を個人で学ぶことは(実質)不可能なので、大変ありがたく、勉強になりました。特に、「多様性の時代(pp.63-72)」「ジェンダーを理解する(pp.73-92)」では、それぞれの出自が歴史と共に丁寧に説明されており、理解を深めることができました(1)

また、(時代が変わって英語の常識が変わっても)変わらないこと(変わってはならないこと)として、「本来目指すべきは、英検1級、TOEICで900点以上を達成した時に、その実力を使って何をしたいかで」(p.26)、「この世の中に普遍的真実(universal truth)というものがないように、言語の世界においても「絶対的なルール」というものは存在しない」(p.146)という指摘は、目的と手段をはき違えないようにしつつ、柔軟な対応が求められる難易度の高いものでした。

2冊目の『英語の極意』は、日本人への英語教育に対する厳しい(negativeな)姿勢に接したことがあり(2)、逆の立場である英語の専門家はどう見ているんだろう?という素朴な疑問から手に取りました。

こちらも結論を先取りすると、おっしゃっていることは(どちらも)同じだと思いました。

例えば、藤原が(日本人への英語教育に対して)厳しいのは、「伝える手段である英語教育よりも、伝える内容(日本語、日本の歴史、日本の文化)の教育が大切だ」と考えているからです。この点、筆者も、「言語の習得には、同じ言語文化圏にいる人たちが共通して持つ「文化」を学ぶことが不可欠です。・・・言語が水面から上に出ている氷山の頭の部分だとすると、文化はその部分も含めた氷山全体です。」(p.3)、「英語という言語そのものを学ぶ必要性は近未来的にはなくなる-とまでは言いませんが、かなり薄れることは確かでしょう。そうした時に、言語だけではなく、英語圏の人たちの文化を学ぶことがますます重要になります。」(pp.5-6)と述べています。

換言すると、日本語にしろ英語にしろ、文化を理解せずに語彙や文法をいくら学んでも完全にマスターすることはできない、語学を学ぶということは文化も含めて学ぶということ、が共通する含意でしょうか。となると、①日本の代表的な古典(3)、②英語の背後にある文化(4)を地道に読み解くしかなさそうです。こちらも難易度が高いタスクです。

(1)どちらも第2章英語の新常識に所収されている。

(2)7月24日付ブログ「藤原正彦(2022)『日本人の真価』読了」参照。

(3)例えば、『源氏物語』『平家物語』『方丈記』『徒然草』など。

(4)例えば、『ギリシャ神話』『イソップ寓話』『聖句』『シェイクスピア』など。